中央材料室の未返却メス

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中央材料室の未返却メス

About this book

瀬戸内海を望む地方私立病院「蒼波総合」。夜の中央材料室で器械を磨き、滅菌コンテナを押して歩く黒木竜也は、五年前の過量投与事故で麻酔科医の免許を失った男だ。慢性痛を廃棄予定のオピオイドで誤魔化し、同僚を皮肉り、誰の死にも興味がないふりをして生きている。だが器械の返却台帳だけは正直で、ある夜、緩和ケア病棟から出したはずのメスが一本、戻ってこない。 未返却の一本を起点に、竜也は小さな矛盾を拾い始める。使用済みシリンジのロット番号の食い違い、心電図モニターに残る不自然な時刻、そして「穏やかに逝かれました」と記録された連続する自然死。同じ夜勤の看護師・美咲、口数の少ない清掃員・老木、怯えた目をした研修医の颯太——カップ麺と缶コーヒーを分け合う三人だけが、彼の話をまともに聞く。 語りは現在と過去を行き来する。事故当日の手術室、十年前に救った少年、休憩室での取るに足らない笑い声。それらが少しずつ重なり合い、経営危機に沈む病院の帳簿と、患者の枕元とを結ぶ一本の線が見えてくる。素人探偵に許された正義は不完全で、告発の代償は自分の罪の露出でもある。深夜の消毒液の匂いと空調の唸りの中で、竜也は自分が何を守り、何を手放すのかを選ばなければならない。

Book details

Genres:
Cozy Mystery, 医療ミステリ, 文芸ミステリ, サスペンス
Language:
ja
Published:
2026-07-27
Content rating:
R

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